小児緩和ケア ― 子どもと家族に寄り添う医療

「緩和ケア」と聞くと、多くの人が高齢者やがんの患者さんを思い浮かべるかもしれません。しかし、重い病気とともに生きるのは大人だけではありません。先天性疾患や難治性のがん、神経筋疾患など、治癒が困難な病気を抱える子どもたちにも、緩和ケアが必要とされます。小児緩和ケアは、子どもの身体と心、そして家族全体に寄り添う、きわめて繊細かつ総合的なケアです。

小児緩和ケアの目的は、「病気の治療をあきらめること」ではなく、「子どもが持つ時間を、できる限り子どもらしく過ごすこと」です。痛みや不快感を軽減し、遊びや学び、家族とのふれあいなど、子どもにとって大切な日常を守ることが第一です。また、子ども自身が持つ「自分の気持ちを表現する力」にも丁寧に耳を傾けることが求められます。

たとえば、治療の過程で何度も入退院を繰り返す子どもにとって、病院は「安心の場」であると同時に「制限の多い場」でもあります。自由に遊べない、友達と会えない、家族と過ごす時間が少ない。そうした日常の制約が、心の負担となることも少なくありません。小児緩和ケアでは、医療的支援と並行して、プレイルームでの活動や音楽療法、アニマルセラピーなども取り入れられています。

また、家族の支援も欠かせません。特に両親は、治療の選択やケアの判断を求められる中で、大きな葛藤や不安を抱えています。兄弟姉妹にも精神的な影響が及ぶことがあるため、家族全体を「一つのユニット」として支える体制が重要です。臨床心理士やチャイルドライフスペシャリストといった専門職が、子どもと家族のこころのケアを担います。

さらに、在宅での小児緩和ケアも近年注目されています。医療機器の進歩や訪問診療体制の整備により、重い病気を抱える子どもでも自宅で過ごすことが可能になってきました。家庭という安心できる空間で、家族に囲まれて過ごす時間は、かけがえのないものです。

小児緩和ケアは、まだ社会的な理解が十分とは言えません。しかし、子どもたちが「病気の子ども」ではなく、「一人の子ども」として尊重され、笑顔や遊びを大切にしながら生きられるよう支えることが、この医療の大きな意義です。誰にとっても、人生の時間は限られています。その時間を、子どもらしく、家族とともに過ごせるように――小児緩和ケアは、そうした願いを形にする医療です。