緩和ケアというと、多くの人は「病気の本人のための医療」と考えるかもしれません。しかし、実際には患者本人と同じくらい、あるいはそれ以上に、支援が必要になるのが「家族」です。重い病と向き合う日々のなかで、家族は精神的にも身体的にも大きな負担を抱えています。緩和ケアの現場では、「家族もまたケアの対象である」という考え方が重要視されています。
たとえば、長期間にわたる介護で心身ともに疲れ果ててしまったり、「もっとこうしてあげられたのではないか」と自分を責めてしまったりするケースは珍しくありません。また、経済的な不安や、仕事と介護の両立といった現実的な問題に直面することもあります。そんなとき、頼れる人がいないと、家族は孤独のなかで悩みを抱え込みがちです。
緩和ケアでは、医師や看護師だけでなく、ソーシャルワーカーや心理士など、多職種が連携して家族の支援にあたります。たとえば、介護保険や医療制度の利用に関する相談や、家族の心理的な不安に対する傾聴、さらには「この気持ちは誰にもわかってもらえない」という想いに寄り添うこともあります。本人のつらさを和らげるためには、まず支える家族の心が安定していることが欠かせないのです。
特に終末期においては、家族の葛藤が深まることがあります。「延命治療をすべきか」「痛み止めで意識がぼんやりしてもいいのか」など、正解のない問いに直面し、決断を迫られる場面が多くあります。そのたびに「自分の判断は正しかったのか」と苦しむ方も少なくありません。こうした場面で緩和ケアチームは、医学的な視点だけでなく、倫理的・感情的な側面からも家族の悩みに寄り添います。
また、大切な人を看取った後にも、心のケアは必要です。遺族ケア(グリーフケア)として、悲嘆や喪失感と向き合う支援が行われることもあります。多くの人が「日常に戻るのが怖い」と感じたり、「もう話せる人がいない」と感じたりします。そんな時に、「つながりがある」と感じられる場所があることは、大きな安心になります。
緩和ケアとは、「命のそばにある医療」であると同時に、「人と人の関係を守る医療」でもあります。病と向き合う本人だけでなく、その周囲の大切な人々にも、温かいまなざしが向けられること。それが緩和ケアの本質なのです。